電子線透過膜を基板としたマイクロ流路デバイス
 近年,これまでに人類が開発してきた全ての抗生物質に対して耐性を示す超多剤耐性菌が出現しており、新たな抗生物質の開発が急務である。しかし抗生物質は従来手法によって開発しつくされており、新たな手法の開発が必須である。そこで我々は従来の光学顕微鏡を電子顕微鏡に置き換え、さらにマイクロ流路技術を用いた細菌のナノレベル可視化実験系を開発している。電子顕微鏡は光学顕微鏡よりも高分解能な観察が可能であるが、観察には真空が不可欠である。これに対し、膜厚数十nmの電子線透過膜で液体と真空を切り分けることで、電子線透過膜近傍における液体の電子顕微鏡観察を実現する。そこで、液中の細菌に抗生物質などの試薬を加えながら電子顕微鏡観察をするために、電子線透過膜を基板としたマイクロ流路デバイス(MEMS液体セル)を開発した(図1)。これにより還流培養中の細菌を電子顕微鏡でナノレベル観察できるようになった(図2)。

MEMS液体セル  MEMS液体セル
図1 MEMS液体セル。 図2 液中細菌の電子顕微鏡観察。



MEMS液体セルを用いた液中試料の高分解能電子顕微鏡観察
 MEMS液体セルを用いた液中試料観察をさらに高分解能するためには、電子線透過膜や液体による電子線の散乱を減らす必要がある。そこで、電子線透過膜を更に薄くし、液層を薄くするためのMEMS技術を開発した。

超薄電子線透過膜
従来の電子線透過膜を膜厚10 nm(原子30個くらい)にまで薄くした、超薄電子線透過膜を開発した(図3)。これにより電子線透過膜における電子線散乱を抑制し、ウイルスの一種であるT4ファージや細菌の一種のシアノバクテリアを高分解能観察ができた(図4)。

超薄電子線透過膜
図3 超薄電子線透過膜付きMEMS液体セル。
 超薄電子線透過膜
図4 ウイルスや細菌のSEM観察。



寒天マイクロ流路や寸止めアクチュエータ
 培養液なしで細菌を培養できる寒天でマイクロ流路を作り、電子線透過膜かに存在する液層を気層に置き換える寒天製のマイクロ流路デバイスを開発した(図5)。内部で培養液なしで細菌培養を可能としたことで(図6)、培養液による電子線散乱を減らすことができる。
 また培養液が必須の場合は、細菌を電子線透過膜に限界まで近づけることが望ましい。しかし、電子線透過膜は非常に薄く少しでも構造が触れると電子線透過膜は割れてしまう。そこで電子線透過膜の近くまでは大きく動き、電子線透過膜付近では細かく動く水圧アクチュエータを開発した。マイクロピラーを付けた薄膜を水圧でたわませ、マイクロピラーがSiウエハにあたると(図7)、ピラー内側のみが細かく動いてぎりぎりまで細菌を運べることを実証した(図8)。

寒天マイクロ流路デバイス  細菌培養
図5 寒天マイクロ流路デバイス。 図6 流路内における細菌培養。
寸止めアクチュエータ
図7 寸止めアクチュエータの原理。
 寸止めアクチュエータ
 図8 寸止めアクチュエータの駆動特性。



光ピンセット操作可能な開放型マイクロ流路デバイス
 離れたところにいる細菌を観察したい場合は、細菌を電子線透過膜付近に運ぶ必要がある。離れたところにいる細菌を3次元的に動かすには光ピンセットは有力なツールであり、流路内で光ピンセットを使用可能とするマイクロ流路を開発した(図9)。光ピンセットを実装することで、マイクロ流路内で離れたところにいる細菌を三次元的に動かすことができる(図10)。

光ピンセット使用可能なマイクロ流路  光ピンセット使用可能なマイクロ流路
図9 光ピンセット使用可能なマイクロ流路。 図10 流路内におけるマイクロビーズの3次元搬送。

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